信州旅行2016.9.16〜9.20

※この記事は過去の旅日記からサルベージされました。

 

仕事を終えてから一旦家に帰って荷物をまとめ、化粧をなおしてTwitterをみたりしていたらあっという間に家を出る時間になる。

 
新大阪で新幹線の切符を買う。おにぎりか何か買って車内で食べようと思っていたけど夜も遅いからか何にも売ってない。行列もすごいし。
しかたがないのでじゃがりことお茶だけ買って自由席に座る。窓際のコンセントが使える席に座れた。
 
じゃがりこを食べたり本を読んだりうとうとしたりしていたらあっという間に新横浜まで来ていた。
東京駅についてからSにLINEを送る。Sも電車に乗ってこちらに向かっているところらしい。
八重洲口でポケモンGOをしながらSが来るのを待つ。やっぱり東京はポケストップの数も多いしたくさん花びらが散っている。
しかし、こうして仕事終わりにSと待ち合わせするというのもなんだか変な気分だ。仕事終わりの日常が東京につながっているなんて。
 
改札からSが出てきたので車を停めているという駐車場に一緒に向かう。
これからしばらくのあいだお世話になる車の後部座席に荷物を乗せて、助手席に座る。
Sが買ってきてくれた使い捨てカメラを開封して、さっそく一枚写真を撮った。いつの間にか写真を撮った後、確認するのが当たり前になっていたから、撮った写真が現像するまで見れないのはなんかおかしな感じだ。
 
持ってきたCDをセットして音楽を聴きながら出発する。夜のドライブ。Sとはじめての旅行。
キラキラする夜の景色を車の中から眺めるのはいつだって楽しい。
 
途中、最初のSAに寄る。なんて名前だったかもう忘れちゃった。山梨あたりだったかな。談合坂だっけ。
Sは朝からなにも食べてないというのでラーメンか何かを食べていた。わたしはあまりお腹がすいていなかったのでおにぎりだけ食べた。あまり美味しくなかった。
 
再び車で移動して、真夜中に着いたPAは釈迦堂っていう向井秀徳っぽい名前のところだった。丁度その時ZAZEN BOYSを聴いていた。
Sがここで一時間くらい仮眠しようという。
シートを倒して靴を脱いで毛布をかけて寝ようとする。が、当然眠れない。外の明かりが眩しいし、シートの硬さが気になる。気になりだすとどんどん締め付けられているような気分になる。
Sはいびきをかいて寝ている。
眠いのでうとうとするけどただただ眠いだけで全然休まらない。こんなところで寝るなんてどういうつもりなんだとちょっと腹が立ってきた。
ようやく眠れそうというくらいになってアラームが鳴ったかなんかでSが起きる。
何かしきりにしゃべっていたけど何を言っていたのか覚えていない。わたしはただただ不機嫌になる。
とりあえず「もうちょっと寝かせてよ」とかそんなことを言ったと思う。そうしたら「じゃあ◯時まで寝ようか」とかSが言う。
そうは言うものの車内の空気がこもっているのか、毛布をかけているからか暑くなってたまらなくなって起きる。車のドアを開けて外に出ると夜の空気が冷たくて気持ちよかった。
自販機でアイスを買ってベンチに座って食べた。
Sは珈琲を買って飲んでいた。「久しぶりの珈琲だ〜。カフェインうめえ」Sは珈琲断ちをしていたのだ。なんで男子は食事を抜くとか、◯◯断ちみたいな修行みたいな要素が好きなんだろう。
「さっき怖い夢みた」とSが言う。
「どんな夢?」
「なんか広い草原みたいなところで、ハイジのおんじみたいなおじいさんが羊を飼っているんだけど。毎日通りかかると必ず見かけるんだ。ある日おじいさんに『おい』と声をかけられる。ふと見るとおじいさんがアタッシュケースを開けて中身をこちらに見せるんだ。中には人間の死体が入っていて、うわぁってなって起きた」
「うわあこええ」
「超怖かったよ!飛び起きたもん」
「それは怖いね。…あ、もしかして起きた後やたらなんかしゃべってたけど、あれ怖かったから?」
「うん。『おい』って声が今も耳にこびりついてる」
Sは本気で怖がってたみたいだったけどわたしはそれが面白かった。
「寝苦しかったもん、そりゃ悪夢だってみるよ!」
「起きたら釈迦堂が」
「釈迦!」
わたしも珈琲を買って、再び出発する。
 
次のチェックポイントは諏訪湖SAだった。車を降りるとすぐ近くに諏訪湖が見えた。空も明るく白み始めていて、紺色だった。空気が冷たかった。
特に何も買わないけどおみやげ物を物色したりする。
SAも民営化してるからかどこも綺麗で新しくなっている気がする。
香ばしいキーホルダーとかは見かけない。それでも剣に巻き付いたドラゴンのキーホルダーは今だにどこでも見つかるのはなんでなんだろう。
 
さて、いよいよビーナスラインへ。Sはビーナスラインで朝焼けの中ドライブするのを楽しみにしていたようだからこれは一大イベントだ。ナビに目的地を設定して向かう。
 
山道をうねうねと登っていく。朝早いから対向車も後ろからの車もあまりなかったけどたまに走り屋みたいなのが抜かしていく。途中にフェンスの向こうに大きな鹿がいたりする。
朝のソフトフォーカスみたいな景色のなかで空気公団がマッチする。プレシャスモーニング。
 
オレンジ色の朝日が見えたから車を停めて写真を撮る。
 
やがて頂上の美ヶ原高原に近づく。ナビに美術館もあると表示されている。
何もない高原の間の道を行くと遠くからでもよく目立つ赤や青などの原色の巨大なモニュメントのようなものがたくさん見えてくる。
「この景色、釈迦堂でみた夢の続きみたいだ」
たしかに、悪夢みたいな非現実的な光景だった。
だって何もない高原でこんな悪趣味なモニュメントだけがそそり立っているんだもの。静かでCG素材みたいな緑の隆線が続き、なんか不気味。
箱根の彫刻の森美術館みたいなセンスだと思ったら同じサンケイグループの作った施設らしくて納得。
レストランとかあるみたいだから一休みできるかと思ったら朝早すぎてやってなかった。
でも、同じようにドライブにやってきた人は何人かいた。カップラーメンをすすっている人が羨ましかった。
雲海が広がっていて幻想的な光景だったけど、寒いし、やっぱり何か不気味な感じがして早々にその場を立ち去った。眠かったし、全体的に悪夢じみていた。その場に居た人たちもなんか顔とかないんじゃないかっていう感じがした。
 
耳の中が詰まるアレを感じて山を降りてきたことがわかる。なかなか詰まりが治らなくて口を開けてあくびを出す。「ピッ」
「治った?」
「治った。ピッていった。治る時きもちいいよねこれ」
 
田舎道のガソリンスタンドで給油する。おじさんが窓を拭いてくれる。水滴がついてるからか曇ったようになって汚くなったようにみえた。Sが
「これ大丈夫か?汚くなってねえか?」と文句を言う。わたしは聞こえちゃうよと心配する。
給油が終わってお金を払い終わるころには水滴が蒸発したのか、窓はきれいになっていた。
「おっちゃん疑って悪かった」と言いながら再び出発する。
 
どこかの名も知れぬコンビニでトイレ休憩をする。お腹がすいたので肉まんを食べた。Sはこち亀の最終回が載っているジャンプを立ち読みしていた。「面白かった」というのでわたしもパラパラ読んだ。
妙にひねったりしなくていつものノリのまま終わっていて素晴らしい最終回だと思った。
「最近は何かと主人公たちの子供を出したりするからな〜BLEACHとか」
 
次の目的地、軽井沢に向けて車を走らせる。
が、この時点でわたしはかなり眠りたいし、疲れたし、お風呂に入ってさっぱりしたい気持ちがしていた。
朝ごはんを食べようということでどこか入れそうなところを探す。朝早いのでやっていないお店が多い。するとドライブインオアシスという看板を見つける。営業中という看板が出ていたのでここに入ることにした。
昭和な感じの懐かしい外観。中もおばあちゃんの家みたいな安心する感じだった。店に入っても誰も出てこなくて、店の奥のほうに座っていたお客さんがなぜかお茶を出してくれた。
わたしはうどんを頼んで、Sはざるそばを頼んだ。
予想はしていたけどあまり美味しくなかった。コンビニで肉まんを食べていたのもあってあまり食べれなかったのでSにあげた。
 
わたしがあまりに疲れてるようにみえたのかSが心配して「どっかで休もう」と言ってくれた。お店の人におすすめのスーパー銭湯を教えてもらい、そこに向かうことにする。その名も佐久一萬里温泉ホテルゴールデンセンチュリー。これまた昭和っぽいホテルで、ここの温泉が日帰りOKらしい。
しかし、温泉が10時からで着いた時にはまだ入れなかった。
売店を眺めたり、ロビーで指相撲したりして遊んで時間をつぶす。
 
やっと時間が来て温泉に向かう。
入浴料とタオルセットの券を券売機で買う。歯ブラシも欲しかったから買おうとしたらなぜか歯ブラシは受付で直接お金を払う。システムがよくわからない。
 
とにかくようやく温泉である。24時間以上ぶりに頭を洗い、お湯に浸かる。たちまち体中を覆ってたパリパリの皮みたいな膜みたいのがパアアア…って消えていくような身体が軽くなるような感じがする。大袈裟かもしれないけど本当にそうなんだ。温泉ってすごい。
熊野の湯の峰に伝わる小栗判官の伝説を思い出す。地獄に落ちて餓鬼病みとなった小栗判官が照手姫に連れられて湯の峰の湯に浸かるとたちまち癒され元の美男子に戻っていくのだ。
また佐久一萬里温泉ホテルゴールデンセンチュリーが全体的に素晴らしかった。
なぜか「天然温泉」「本物」「100%」などの謳い文句をあちこちで主張してくる。そこまで書かれると逆に心配になるわ。なんかあるのかな?と。
まあでも言うだけのことはある、いい温泉だったと思います。あと、蛇口とかあっちこっち壊れてたのもおもしろかった。ドライヤーで髪乾かしてたらおばあさんがここの蛇口壊れてるよって教えてくれた。
 
 
お風呂からあがってSと合流して二階の広間に行き、座布団を敷いてうとうとする。
浅い眠りだったけど十分休めた気がする。Sはここでもやっぱりいびきをかいていた。館内着がまたバカっぽくてかわいかった。もって帰りたいくらいだった。
 
気分も身体もすっきりリフレッシュ。時刻はもう昼だ。うん、なんとか一日活動できそうな気がする。やっぱり風呂に入って少しでも眠るって大事なことなんだなと実感。
 
SMAPをききながら車を再び走らせて軽井沢にイン。あたりの景色もそれまでのただの田舎道とは違ってくる。
しかし、ひところはもっと華やかだったろう別荘地も今では「売地」の看板が目立つ。このご時世別荘を買う人なんて少なくなってるだろうな。
 
時代に取り残されつつも軽井沢ブランドにすがりついてる感があってなんだか物悲しくなる場所だ。
昼ごはんは下調べして行きたいと思っていた「ピレネー」に。
ジビエ料理が食べられるとのことだったけどメニューにはそれほど珍しさはなかったな。とりあえずサーロインステーキを頼むことに。前菜はビュッフェ形式で好きなものを好きなだけ食べれる。これはちょっと嬉しい。
お店や前菜はフレンチな感じだったけどステーキはフライドポテトが添えられたアメリカンなこってりした感じだった。まあまあ普通。うーん、これで2000円もとられるのか…と内心思う。
お店のテイストや食器類は好きだったけど。テラス席で食べたけどお庭の感じもよかった。
 
腹ごなしもかねてメインストリートと思しき旧軽井沢通りを歩いてみるけど、特にそそられるものもない。
熱海くらい一周回って古くなった観光地は今再評価の波が来てるけど、軽井沢ってまた微妙なんだよな。
当人たちはその時代遅れ感に気づいていないというか。
お高くとまったマダム達のセンスというか…。
行きたいと思っていた軽井沢聖パウロカトリック教会に向かう。結構歩いたけど曇り空で涼しかったのもあって気持ちよかった。
通りの雰囲気は鎌倉の小町通りを彷彿とさせる感じあった。人も多かった。
パウロカトリック教会はメインストリートから少し離れたところにあった。山荘テイストだけどコンクリートと木の両方が使われていてモダンな雰囲気だった。小さくてかわいらしい教会だった。
再びメインストリートに戻り、ミカドコーヒーに。
アイスクリームの売店には行列ができていたけどカフェは待たずに入れた。珈琲とチーズケーキをいただく。
お店の名前は天皇陛下にちなんでつけられたのだろうか。店内には天皇皇后陛下の有名なテニスコートの写真が飾られている。
 
駐車場まで戻って駅の反対側のショッピングモールへ向かうことに。わたしが上着を持ってくるのを忘れてしまったのでどこかで買うことにしたのだ。
雨が降ってくる。ショッピングモールになかなか入れず何度もぐるぐる回る。
二人ともおかしなテンションになってきたのか、信号待ちをしている時には音楽に合わせて振り付けをつけて踊っていた。雨はかなり激しく降っていた。
モールで上着を買い、ちょっと物色する。かなり広い。雨の中全部を見て回るのは諦めた。意外なことに全然ポケストップがなかった。軽井沢の人たちはポケモンをしないのだろうか。
 
買い物を終えていよいよ初日の宿泊先である万平ホテルへと向かう。辺りはすっかり暗くなっていたし、雨は強くなる一方だし、道は混雑している。
予定時刻をだいぶ過ぎてのチェックインとなった。
夕飯も、あまりお腹が空いてなかったので遅い時間にしてもらった。
部屋は、ビジネスホテルと比べると広くてオシャレな感じ。でもやっぱりアタゴ館とか昔からある部屋に泊まりたかったなとちょっと残念。大浴場とかもなかったし。それでももちろん贅沢なお部屋ではあったのだけど。
 
晩ご飯はもちろんフルコース。
昼が遅かったしケーキも食べたりしてたからあまりお腹は空いてなかったけどそれでも美味しくいただけた。白身魚のフライ的なものは半分Sにあげて、この日2度目のサーロインステーキは三分の一くらいしか食べられなかったけど。
Sはビールを美味しそうに飲んでいた。
 
食後、せっかくなのでホテルのバーにも行ってみる。こちらもモダンで大人っぽいシックな空間。Sは再びビールを頼んで、わたしも何かカクテルを飲んだ。
アルコール度数弱めのものをとお願いしたのに結構強かったみたいで少し飲んだだけで顔が熱くなった。全部は飲めないので半分以上Sに飲んでもらった。
 
お腹いっぱいで酔っ払っていい気分で部屋に戻る。
アルコールが回っていて水を飲んでベッドに横になったら全身の力が抜けて少し眠った。
その間にSはお風呂に入っていた。
Sが出た後にわたしもお風呂へ。この頃にはもう気分はスッキリしていた。汗も流していい感じ。
 
とは言え、1日みっちり行動した感じだったので二人とも疲れ果ててすぐに眠ってしまったように思う。あまり覚えていない。
 
 
二日目の朝。
窓の外はまだ雨。
晴れていたらホテルの庭を散歩したかったのに。
朝食の時間ギリギリまで寝ていて、身支度を整えてダイニングルームへ。
窓際の席を案内してもらった。雨だけど庭園はいい雰囲気。
朝食はパンもウインナーもコーヒーもオレンジジュースも美味しかった。卵は二つもついてきたけど半熟とろとろ過ぎて食べるのが大変だった。
この時間が終わってほしくないって思えるくらいプレミアムな時間だったな。
 
ずっとここに滞在したいね〜と言いながら出発の準備。雨だし出かけるのが億劫になってしまう。
記念撮影もせずにホテルを発つ。
 
軽井沢の山を降りるのがこの旅行中一番雨が降っていたんじゃないかな。わたしは「スプラッシュマウンテンだ!」とか言いながら面白がってたけどSは大変だったかも。
車内のBGMはSが大学時代サークルでコピーした曲集になっていた。「この曲は大変だった」とかそんな話を聞く。
 
やがて安曇野に突入。のどかな景色が広がっている。天気が良ければほんとに気持ちが良かっただろうなぁ。
安曇野道祖神がたくさんある土地として知られているらしい。
道祖神は五穀豊穣を願って田畑の近くに置かれている小さな石造りの守り神。
文字が書かれていたり球体のものなど色んなタイプがあるが、安曇野に多いのは子孫繁栄、五穀豊穣の意味合いが強い男女二体の双体道祖神のようだ。
 
山下達郎のサンデーソングブックが始まったところで目的地の大王わさび農場に到着。
 
レストランで昼食をと思っていたけど混んでいたしランチの時間がもう終わってしまうみたいだったので諦めた。
わさび農場、広くて一農家が敷地を解放してるみたいなんだけど、入場料もとられなかったし、かといってしっかり来場者を低コストで楽しませようという気持ちが伝わってきた。謎のオブジェとかも色々。工夫。これぞインディーテーマパーク!
 
大王というのは敷地内の大王神社に由来しているらしい。八面大王というのは坂之上田村麻呂と戦ってこの土地の農民たちを守った勇者として伝えられているのだそうだ(別の説では八面大王とは悪い鬼のことで坂之上田村麻呂によって討伐されたとの見方もある。)。
 
順路とか案内とか説明看板とかもあまりないからとにかく道になってるところを歩いていって、階段のようになっているところがあったので登ってみたら、小山のようになっている頂上に大きな石の球体があった。
 
高いところに登ると、安曇野に入ってここまでくるまでに橋の端や、道の辻に見かける道祖神や、日本最大のわさび農場とそれのテーマパーク化や、八面大王の民話…それぞれに共通する「農民たちの夢」「生活の知恵、工夫」そして「フロンティアスピリット」を強く感じてなんだか感極まった。
 
わさび農場に到着する直前にガイドブックを見ていて気づいたけど、ここは黒澤明の『夢』のロケ地になっていたらしい。
そういえば水車小屋の話あったなぁと思って興奮。
雨も降りやまなくて足場も悪かったけどその水車小屋を探した。
 
水車小屋はちょっと外れたところにあって人も少なかったけど静かで凄く雰囲気がよかった。流れている川も綺麗だった。犀川ともう一つ、別の川が流れてて、ちょうとその二つの川が合流する地点らしい。
映画の中でもなんだか違和感のある地形だと思ってたけど、そういうことだったんだね。
 
ここを『夢』のロケ地に選ぶのに納得する、なんとも現実感のない景色だった。水車が静かに軋んで音を立てていた。
 
小屋にはつい最近まで使っていたかのような農作業の道具が置かれていたけど、歴史の教科書に載っていたようなタイプのもので、ここはほんとに現代の日本なんだろうか?と脳がぐんにゃりする感じだった。
 
水車小屋を見下ろせるちょっと高くなったところには夢石と看板が立てられて上が平べったくなってる石があった。
これは黒澤明が座りながらメガホンをとっていたということから「夢石」という名前がつけられたそうで、ここでもまた農民たちによって伝説が作られる感じ=夢の具現化=インディーテーマパークを感じて胸が熱くなる。
 
また、前日からやけに「夢」がつきまとう旅だな、ということを感じる。
 
わさびコロッケやわさびソフトも美味しかった。雨の大王わさび農場を後にする。
 
再びドライブタイム。白馬を目指す。
 
途中、道の駅があったのでここで休憩をする。
相変わらず、特に買い物をしないのに地元の物産品などを物色する。野沢菜とかわさびとかそんな感じだったと思う。
レストランコーナーがあったのであたたかいココアを飲んだ。Sは信州りんごジュース。
実家にありそうなマグカップで、おそばとかうどんとか用のお盆に乗って出てきたので笑ってしまった。
 
休憩を終え再びアートラインへ。美術館が多いからアートラインという名前がついてるらしい。
白馬に向かうまでに湖が二つくらいあったんだけど、線路と湖のほとりにぽつぽつ建つ民家…って景色がいい感じだった。田舎にドライブにきてるな〜っていうのを実感する。
 
そうこうしてちょうどチェックインくらいの時間に宿についた。民宿しろうま荘っていうお宿。
お部屋が綺麗で温泉があるところを適当に選んだけどなんかの賞も取ってるらしくてなかなか評価が高い宿だったみたい。
 
受付してくれたのは今時なかなか見ないぞってレベルでいう眉毛を整えた男性で、S曰く狩野英孝似だったんだけど、館内は和モダンな感じでいいね〜となった。
お部屋も全体的にナイスセンス!置いてあるものや照明全てわたしの好みに合う感じで嬉しかった。
 
部屋の中でしばらく写真撮ったりのんびり休んで、夕飯の時刻になった。
昨日と違ってちゃんとお腹が程よく空いていて、期待に胸を膨らませて食卓へ。
鍋物はしゃぶしゃぶで、他に馬刺しやその土地で採れたお野菜など…。
ご飯も白米と古代米というのがあって、地域で採れるものをレペゼンしてる感じ伝わってきた。
どれも美味しくてほとんど残さず完食。お腹いっぱいになりました。
 
ご飯の後は待ちに待った温泉。
混んでるかな?と思ってたけど誰もいなくて贅沢に一人の時間を過ごせた。
浴場もオシャレで、石がゴージャスな感じだったし、お湯がとろっとした質感で濃い気がした。湯から上がると芯までポカポカになってお肌もすべすべ。
浴衣もこれまたわたしの好きな白と藍色のストライプに手毬が散らしてあるデザインで嬉しかった〜。
 
部屋に戻ったらお茶と雷鳥の里をいただきながらゆっくりする。
宿の歴史みたいなのが書かれていたから読んでいたら、元々は農家で昔スキーブームの時代に旅行客を泊めたのが民宿のはじまりらしい。このようなスタイルの民宿は全国各地に広まっていったんだって。
しろうま荘は長野オリンピックの時に現在の家屋にリニューアルされたらしい。
 
夜寝る前にもう一度温泉に浸かった。ぐっすり眠れて疲れも次の日残らないくらいだった!
 
朝食もまた素晴らしかったな。和食でもオレンジジュースを飲む。ごはんに味噌汁に焼き魚。この上ない朝食でした。
 
ご飯後、最後の温泉タイム。ちょっと入っただけでもぽかぽかあたたまる。
天気が悪いのでチェックアウトギリギリまでのんびり。
外に出た時には小雨だったのでちょっとだけ周囲を散策。
やはりスキー客や登山客があるからかお土産物屋にアウトドアコーナーがある。
 
ひと頃はもっと賑わってただろうに、オフシーズンってのもあるかもだけどやってなさそうなお店もあってちょっと時代に取り残された寂しい雰囲気も感じた。
 
さて、白馬を離れ最後の目的地、松本に向かう。信州旅行のフィナーレもいよいよ近づいてきた。
車で移動中、来るときも通りかかった湖のところへやってきた。
湖の目の前の小さな無人駅の看板には「海の口」と書かれている。来るときには引っかからなかったけど、ここへきてはじめて「なんてかわいい地名なんだ!」と感激してしまった。
Sとふたりでテンション上がって、車を路肩に停め、駅の方まで歩いてみる。(この車停めたのも今はやってないと思われる「ぐーちょきぱ」と書かれたかわいらしいラーメン屋の前だった!)
ちょうど雨もやんでいて、霧がすこしかかった幻想的な、でも田舎の長閑な景色が広がっていた。
「海の口って!海の口って!この地名をつけた人は、きっと本物の海をみたことがなかったけど、この小さな湖から海を想って、それで海の口ってつけたんだろうね!!」
と勝手にここらの山の中の人は田舎者で海をみたことがないと決めつけて興奮した…。
なんかだってもうテンション上がってるのもあるからだと思うけど、またここでも「山の民の夢」を感じてしまって…。
この湖から、海を夢見て…。けど「口」って。それがまた謙虚で、ささやかでかわいらしい。
 
ほんとに楽しくなって、Sとつないだ手をぶんぶん振ったり、くるくる回ったりした。
写真を撮ったりひととおり楽しんでその場を離れた。
 
お昼のちょうどいい時間に松本入りできた。
体育館かなんかの駐車場に車停めて、弟オススメのメーヤウ信大前店に向かう。
信大前と言ってもちょっと住宅街を入ったわかりにくいところにあった。
こじんまりしたお店だけど休日にもかかわらずお客さんはほぼ満員。
幸い待たずにテーブル席に座れた。
看板には「カレーとコーヒー」と書かれているのがなんとも好ましく、わたしの心をそそる。ので、インド風シーフードカレーとコーヒーを注文した。
ご飯とカレーが別々にサーブされるタイプで、ご飯はかため。カレーにゆで卵が乗ってるのもわたしの好みだ。
なかなか辛くておいしい。これは近所にあったら通ってしまう味と価格。
食後のコーヒーも美味しくいただきました。本来タイカレーの店らしいから次来れたらタイカレーだな。
 
うろうろ歩いて遠回りしながら駐車場へ。Sは遠回りするのが好きみたいだけどあんまり遠回りしすぎて結構疲れてしまった。食後のいい運動にはなったけど。
 
次は松本駅近くに車を停めて、開運堂という老舗のお菓子屋さんへ。ここの白鳥の落雁をお土産に買いたかったのだ。
適当に行ったけど本店にたどり着けた。
パッケージもどれもかわいらしいからカステラとか、道祖神っていうお菓子も買った。
グーグルマップをみながら今度は珈琲まるもという喫茶店を目指す。
途中、古本屋さんを見つけて入ったり。
旅行先で出会った古本屋では大抵なにか買うことにしてるけどこの時は買わずに出てしまった。なにか買えばよかった。
ガイドブックとかでチェックしてたお店もこの近くだった。
グレインノートという家具とか雑貨を扱ってる店はなかなかよかった。急須が欲しいなと思ったけどちょっとお高かった。
 
まるもは旅館に併設されたカフェらしい。家具も食器も落ち着いてて素朴でいい雰囲気だった。
この近くにはちきりや工芸店も。松本が民芸の街と言われるのはこのあたりのエリア一帯が所以だろうな。
ちきりや工芸店は置いてあるものがどれもほんとに品よく質素で素朴で愛らしく素敵だった。手の届くお値段なのも魅力的!
Sが鳥の箸置きとお皿を買ってくれた。
お店のおばあちゃんも可愛らしくて、買ったものを包みながらひとつひとつ「これもほんっとに可愛らしい」「これは不思議と色褪せないデザインね」とかコメントしてくれるのがうれしかった。
また来たいなあ。
 
来た道と微妙に違う道を通って駐車場に戻ってくる。
目的を全て達成して、あとは帰るだけ。
Sは名古屋まで送ろうかと言ってくれたけど、そんなのさみしいじゃん!と思って東京駅まで送ってもらう。
旅が終わって欲しくないから来た道とは違う遠回りの道で帰ることに。
お互い疲れてるけどやっぱり旅が楽しくてまだまだ変なテンション。
高速乗って、雨も強いし、渋滞もしてるけど、それでもやっぱり楽しい!帰りたくない!!
そして珈琲をたくさん飲んだから次々と襲いかかる尿意!
高速乗る前もガソリンスタンドでトイレ行ったのに高速入ってからも何度もトイレ休憩…。
かなりやばいときもあったけど佐久SAでなんとか助かった。佐久には行きも帰りも助けられてるな…と思っていたら、佐久は昔から宿場町で街道を行く旅人の休憩場所として栄えたという歴史があるんだって!わたしもSもSAが好きだけど、昔の宿場町の名残として今も形を変えて在るって考えると面白いなと思った。
 
さて、そこからどうやって東京まで来たのかはあまり覚えてない。もう新幹線の最終には間に合わないからって、Sが泊まる場所を探してくれた。赤羽のスーパーホテルってところに泊まることにした。
このホテル、提携の駐車場に入るのにめっちゃぐるぐる回って大変だったな…。
スーパーホテルは、ビジネスホテルをさらにコンパクトにした感じで、最低限のものがあるって感じだったな。これまでのお宿と比べると天と地との差が…。S曰く、現実に少しずつ戻れるようにとの配慮らしい…。まあ寝るだけだし別にいいんだけど。
いつの間にか寝ていつの間にか朝を迎える。
朝ごはんはSお気に入りの駅前の喫茶店へ。向かう途中、ボウイシャッターの前で記念撮影も。
茶店は、好感の持てるチャーミングで素敵なお店だった。モーニング美味しかった。珈琲も好きな味だったし。
赤羽は全体的にお金もってなさそうな人ばかりが歩いているのも安心できる感じだったな。
茶店ではSと中学生の頃に描いてたまんがやオリジナルのキャラクターの話をしていた。
 
茶店を出て、東京駅に向かう。最初と同じ首都高だ。首都高のぐるぐる回る感じはおもしろい。
渋滞してて、なかなか着かなかったけど、旅が終わって欲しくなかったからそれでよかった。
 
始まりの時と同じ駐車場に車停めて、同じように写真撮った。写ルンですも使い切った。現像するのが楽しみだ。
 
東京駅八重洲口でSと別れる。
日常と非日常に引き裂かれるような別れの場面をこれからも何度も繰り返すんだろうな。でも、そうしないと日常には戻れないのかもしれない。
新幹線の中で眠り、起きた時にはもう現実はすぐそこだった。