甘い蜜の部屋/森茉莉
※この記事は過去ブログからサルベージされました。
甘い蜜の部屋、は森茉莉とその父鴎外との関係性ををモチーフにした小説ということは知っていたので興味はあったけどちょっとためらいがあった。
実際読んでみるとその父との関係や主人公をことさら美化しているようにも思われる。
しかし、そこはそれ。
フィクションと割り切って読むようにしたら楽しめました。
森茉莉のことも極力調べないようにして読み進めた。
この小説は美しく魔性の魅力をもつ少女、モイラと彼女の父親、そして彼女に魅せられた男たちの物語だ。
モイラはその天性の魅力で男たちを虜にしてしまう。
彼女の父親も娘のもつ魅力には抗えない。
彼女自身はというと、心底すべてを許しているのは父親ただひとりのようだ。
この父と娘は他の人が立ち入ることのできない、親子以上のような親密な関係を築きあげてしまう。
それは外からみるとまるで靄の掛かったような、半透明のカーテンでつつまれているような関係だ。
モイラは終始外部と自分を薄い靄でシャットアウトしてしまう。
その、届きそうで届かない存在感が男たちをより一層狂おしく駆り立てるのだろう。
この小説に登場する男たちは、モイラの父を除いてみんなどこか滑稽に描かれている。
モイラにとって父以外の男は取るに足らない、見下しても構わない存在として捉えられるのだろう。
この奔放さは幼女のような魔性を持っているモイラだからできる振る舞いなのだろう。
解説でも触れられているとおり、この作品は三島由紀夫の作品にも比肩しうる、美しさについての小説だ。
ここまで自分の美学を持っている小説家は三島と、森茉莉くらいだろう。
倫理や道徳も、この悪魔的な美に逆らえない、そういうお話なのだ。